嘘は、アウグスティヌスの論文「嘘をつくことについて」(395年)において初めて定義されました。
アウグスティヌスの定義によると、嘘とは「欺こう(あざむこう)とする意図をもって行われる虚偽の陳述」。
間違いも「事実とは異なること」という意味を持っていますが、嘘との違いは故意性があるかどうかです。
故意的に事実ではないことを述べることを「嘘をつく」といいます。
なぜ人は嘘をつくのでしょうか。
嘘つきはいなくならないのでしょうか。
今回は身近にひとりはいる、嘘つきの心理についてまとめました。
なぜ人は嘘をつくのか
嘘つきの歴史

人類最初の嘘はアダムとイヴの息子・カインがついたと言われています。
アダムとイヴがエデンの園を追い出されたあと、二人の間に息子のカイン(兄)とアベル(弟)が生まれました。
紀元前4,000年ごろの出来事です(諸説あります)。
二人は神様であるヤハウェにそれぞれ収穫物を捧げました。
ヤハウェは兄・カインの収穫物には目もくれず、弟・アベルの収穫物にのみ興味を示しました。
これにヤキモチを焼いたカインは、アベルを野原に誘い、殺害してしまいます(人類最初の殺人とされています)。
その後ヤハウェにアベルの居場所を聞かれたカインは、
知りません。
私は弟の永遠の監視者なのですか?
と答えたそうです。
これが人類が最初についた嘘とされています。
嘘つきはいなくならない

紀元前4,000年から現在まで変わらず続く”嘘”。
人類誕生以来、6,000年間も存在し続けています。
ここまでの6,000年間でなくならないのであれば、おそらくこれから先もずっと、嘘がなくなることはないのでしょう。
嘘は良くない。
これはみんな知っていることです。
アウグスティヌスの論文にも「嘘をつくことに反対する(420年)」というタイトルのものが存在します。
良くないことと分かっていながらもみんな嘘をついてしまう。
一体どうしてなのでしょうか?
自分も嘘つき?

嘘はだめだよね!
わたしは嘘なんてつかないよ!
「自分は嘘をついていない」と思っていても、実は、大学生以上の人は、人との関わるときおよそ5回に1回は嘘をついているという研究結果があるんです!
アメリカ・カリフォルニア大学の社会心理学者ベラ・デパウロ博士の論文(1966年)の研究結果から明らかになった事実です。
特に多いのは、プラスの感情を抱いているように見せかける嘘。
好きじゃないのに好きなふりをしたり、楽しくないのに楽しそうなふりをしたり、などですね!
なるほど!
日本でいう、空気を読んだり、忖度したりとかも嘘に該当する場合があるんだね!
たしかにそれなら1日1回はやっちゃうかも…。
確かにこれら空気を読んだ行為もアウグスティヌスのいう、故意的につく、事実とは異なる虚偽の陳述ですよね。
ではなぜ素直に自分の気持ちを表現できないのでしょうか?
なぜ人は嘘をついてしまうのでしょうか?
嘘をつく人の心理

なぜ嘘をついてしまうのか。
ズバリそれは、恐怖心があるからです。
すべての物事の始まりは、愛か恐怖のどちらかに分類されますが、嘘という行為は恐怖がもととなっています(中には愛のある嘘というものも存在するかも知れませんが)。
恐怖は人を突き動かす大きな原動力となります。
例えば、医者にこのままでは死ぬと言われダイエットを始める。
将来の不安から貯金を始める。
明るい展望を見せるよりも、不安であおったときの方が、人を突き動かす初速はすさまじいものとなります(持続力はありません)。
あらゆる恐怖にあおられて人は嘘をつくのです。
1. 嫌な状況から逃げ出したいという恐怖

最も簡単に嘘をついてしまいがちなのが嫌な状況から逃げ出したいという恐怖に突き動かされた場合です。
例えば
やばいー!寝坊したー!
もう会社間に合わないよー!!
というときに「寝坊しました」と言って怒られるのが嫌で、「電車が遅れて…」と嘘の連絡をしてしまう。
子どもは特に顕著です。
怒られたくないという思いが強いので、小さいうちはポンポンポンポン嘘をつきます。
アメリカの数学者 S. G. クランツ(Steven G. Krantz, 1998)が面白い研究結果を残しています。
大学生の孫を持つ祖母の死亡率について調べたところ、中間テストや期末テスト期間中に死亡率が最も高くなることが分かったそうです(笑)
たしかに大学生のとき、「おばあちゃん死んじゃってテスト受けれません」って人いましたわ…。笑

嫌な状況から逃げ出したいという恐怖にもとづく嘘の頻度は高めですが、嘘の内容は比較的軽め。
具合が悪くて会社に行けない、仕事が忙しくて飲み会に行けない、などがその場から逃げるための軽い内容の嘘になっています。
周りに大きな迷惑をかけることも少なく、その後に引きずることもあまり無いので、比較的簡単についてしまいがちな嘘だと言えるでしょう。
2. 嫌われたくないという恐怖

本当の事を言うと嫌われてしまうのではないかという恐怖心から嘘をつくこともあります。
軽いもので言えば、空気を読んだり、忖度したりというのがこの嘘にあたるでしょう。
好きじゃないのに好きという。
美味しいと思っていないのに美味しいと言う。
楽しくないのに楽しいふりをする。
知っているのに知らないフリをして相手を喜ばせる。
話を盛ってみんなを楽しませてあげようとする。
などなど、一見相手のためを思った愛に基づく行為に見えますが、実際は嫌われたくないという恐怖に基づいた行為です。
しかもこれは一度やってしまうと、相手から『そうか!あなたはそういう人なんだね!』と認識され、今後もそれが続くことになるので少々やっかいです。

先の説明は軽めの内容の嘘ですが、重たい内容の嘘もよく耳にします。
自分に非があるけれどそれを認めたくない、隠したいから嘘をつくというのはその代表例と言えるでしょう。
例えばこんなケース。
仕事で田中さんに渡したと思っていた書類、まだ手元にあった…。
でも今から渡したらみんなからの評判ガタ落ちだよー。
…破棄して、田中さんに渡したって言い張っちゃおうかなぁ。
こういった話、マンガやドラマ、はたまた現実でも経験がありますよね。
このような嘘は人を陥れる、ひどい嘘です。
なぜこのような嘘をつくのかというと、田中さん以外の人に嫌われたくないという恐怖心があるから。
残念ながら、罪をなすりつけられた田中さんは、この人にとって嫌われたくない対象ではなく、どうでも良い存在。
田中さんになりがちなのは、立場の弱い人、年下、物静かな人、温厚な人です。
当てはまる方々は、ずるい人たちの嫌われたくないという恐怖からつく最低な嘘に巻き込まれないように注意しましょう。
この項で取り上げた嘘は内容は違いますが、どちらも嫌われたくないという恐怖がもとになっているのは確かです!
3. 自分の立場が危ぶまれるという恐怖

自分の立場が危ぶまれるという恐怖からつく嘘は本当にやっかいです。
このパターンの嘘をつくときには、多くの場合、蹴落としたい相手が存在しています。
たいていは、ライバルや邪魔者がその蹴落としたい相手にあたります。
嘘の内容は複雑かつ、その人を陥れる内容。
パターンはだいたい決まっていて、
- 自分の非を隠す嘘をつく
- その人にまつわる悪い噂や嘘を流す
- だから自分はかわいそう、相手は最低だ!敵だ!というストーリーに仕上げる
自分の有利に物事を運びたいけれど、正当法ではうまくいかないことも分かっているので、自分に都合の良いように話を作り替えて、なんとか有利に働くようにしたいのです。
特定の物事を有利に運びたいだけでなく、人の情に働きかけ、自分はかわいそうなんだ、だから私の味方になって、相手は敵だ!という環境をつくり、今後も長きにわたって有利な環境を手に入れようとします。
これは本当にやっかいです…。
前に、息をするように嘘をつく人が周りにいたのですが、根も葉もない噂をずっと流されて本当に迷惑でした。
なぜこんな嘘をついてしまうのかというと、自分の立場が危ぶまれるという恐怖、焦りからこのような行動に出てしまうのです。
これは実力が僅差、もしくは相手の実力が上だと感じているからこのような行為にでています。
もし、正当法で倒せるのであれば真正面から勝負しますよね。
勝つのは無理、むずかしいと分かっている。
でもなんとかして自分の立場を守りたい、相手を倒したい。
真正面から挑んで勝てないのであれば諦めるか、自分の実力を上げるよう努力すれば良いのに、中には姑息な手で勝利をもぎ取ろうとする人たちもいるんですよね…。
この手の嘘をつく人たちは、自分の立場が危なくなる!という恐怖から嘘をついています。
嘘をつく人の心理
今回は身近に1人はいる、嘘つきさんの心理についてまとめました。
なんでそんなにそんなに嘘をつくの?
とこれまで疑問に思っていた人はこの記事を読んで
なるほどね!怖かったのね!
と納得していただけると嬉しいです。
- 嘘つきがいなくなることはない
- 人は人との関わりの5回に1回は嘘をつく
- 嘘をつくのは恐怖心があるから
- 嫌な状況から逃げ出したいという恐怖
- 嫌われたくないという恐怖
- 自分の立場が危ぶまれるという恐怖